ROHM

ロームの高性能スイッチング・レギュレータ・コントローラ

ロームは、アヴネット社のザイリンクス7シリーズFPGAおよびZynq®-7000 All Programmable SoCの評価キットMini-Module Plus 用の電源モジュールとして、ローム製の電源モジュールが採用されたことを発表した。

この電源モジュールは、ロームのスイッチング・レギュレータ・コントローラIC 2品種、BD95601MUV 6個と BD95602MUV 1個、計7個で構成されておりロームの自社設計である。アヴネットでは自社製のザイリンクスFPGA評価キットを多数販売しているが、日本メーカの電源モジュールの採用はローム製が初めてとなる。

リファレンス・デザインになっているこれらのICは、ロームから単体でも販売される。高性能でありながら汎用性が高く、FPGAのみならず広範なアプリケーションに利用可能なロームのスイッチング・レギュレータ・コントローラICの特徴と鍵となるテクノロジーに迫る。
  
 
アヴネット製ザイリンクス7シリーズFPGAおよびZynq®-7000 All Programmable SoC評価キットMini-Module Plus用のローム製電源モジュール。ベースボード(写真左下)に装着する電源モジュールとして、アヴネットから販売される。詳細はこちら。(写真クリックで拡大)

 FPGAが求める電源

昨今のハイエンドFPGAは、プロセスの微細化とそれに伴う低電圧化、コア部とインターフェース部の電源分離やデジタル回路・アナログ回路の混載などのマルチ電源化により、高度な電源管理が必要となる。電圧精度はもちろん低リップルであること、投入順序管理やそして高い負荷過渡応答性能が要求される。右の図はロームの電源モジュールの出力構成で、それを生成する各スイッチング・レギュレータ・コントローラの製品名を示す。

このMini-Module Plus電源の仕様に付いては、アヴネット社のDesign Resource Centerから提供されており、[Support Files & Downloads]ボタンをクリックすることで入手できる。なお入手にはユーザ登録が必要。
 
ロームの電源モジュールの出力構成とFPGAの電源要求

 低電圧・高電流出力で高精度・高安定を実現するロームのDC/DCコンバータ

この電源モジュールに使われたスイッチング・レギュレータ・コントローラICは、1ch のBD95601MUV と 2ch のBD95602MUV の2品種で、主な特徴は以下の通り。
FPGA用に最適な仕様と特徴
高速過渡応答を可能にするH3RegTM DC/DCコントローラ
1ch: BD95601MUV、 2ch: BD95602MUV
最大効率 95%以上
軽負荷モード、連続PWMモード選択可能。静音軽負荷モード(BD95602)
調整可能なソフトスタートにより起動時の突入電流を軽減
パワーグッド出力
多彩な保護機能:自動復帰型過電流保護(OCP)、短絡保護機能、
 過熱保護機能(TSD)低電圧誤動作防止機能(UVLO)

 BD95601MUV  BD95602MUV
入力電圧範囲  4.5V~25V  5.5V~28V
出力電圧範囲  0.75V~2.0V  1.0V~5.5V
基準電圧  0.75V±1.0%  0.7V±1.0%
スイッチング周波数  200k~500kHz  150k~500kHz
パッケージ  VQFN20V4040  VQFN32V5050

基本的には2製品共に高効率の同期整流型の降圧コントローラで、軽負荷モードをもち低負荷時の効率も高い。基準電圧は0.75V/0.7V と低電圧に対応し、±1% の精度は上述の±3% の精度要求を上回り、リップルも低い。そして、ローム独自のH3Reg 制御モードにより高速過渡応答を実現している。FPGA用の電源としては非常に的を射た仕様である。
  BD95601MUV
BD95602MUV

(クリックで拡大) 
ローム独自の高速過渡応答 H3Reg 制御
負荷過渡応答特性を高速化するために、固定オンタイム制御を使用するソリューションがあるが、H3Reg
制御は負荷急変時の過渡応答特性を更に高速化した、進化型(改良形)の固定オンタイム制御方式である。
 
H3Reg コントローラが、FB(出力)が負荷過渡により大きく降下した場合にON時間を延長し、出力の復帰を早める。 
  FB ピンには、内部電圧制御コンパレータ入力の基準電圧(REF)と比較するために分圧された出力電圧が帰還される。
  通常動作では、H3Regコントローラは、FB ピンの電圧がREF 電圧以下になったことを検出すると、以下の式で決まる時間(ON)の間HGをオン(ハイサイド・トランジスタをオン)にして、出力電圧を上昇させる。
 
    ON後にHG がオフになると、LG をオン(ローサイド・トランジスタがオン)にして、FB ピン電圧が降下し始め REF電圧と等しくなるとLG をオフにする。 
  この繰り返しによって、出力を一定に維持する。
  負荷急変時には、出力が低下しFB ピン電圧が決められたON時間を過ぎてもREF電圧以上に上昇しない場合、ON時間を延ばしてより多くの電力を供給することで、出力電圧の復帰を早める。すなわち、過渡応答特性が向上する。
BD95602MUVの実際の過渡応答。0Aから8Aの負荷過渡に対して低下した出力が、非常に高速に復帰しているのがわかる。

    出力電圧が復帰すると、通常動作に戻る。

 優れた電源を手に入れるために

右の写真は、ローム製電源モジュールの出力のうちの一系統、1.2V出力の波形である。この出力のリップル電圧は5.6mV、すなわち0.5%未満であり、BD95601MUVの出力精度の高さを示している(データシートにおいて、出力偏差が記載されていないため、これ以上客観的な記載ができない)。もちろん、すべてにおいて最適化が行われ調整された結果ではあるが、実はICの素質がよくないと、如何に調整してもこういった優れた特性は得られないことを強調しておく。

残念ながら、スイッチング電源を設計するのは簡単とは言えない。部品定数の計算はもちろん、最適な特性を得るための部品ケミストリの検討、基板設計、そしてデバッグなしにして本来の性能は得られない。  

したがって、優れた電源を手に入れるには、この電源モジュールをそのまま利用する、FPGAキットでの評価を終え実機に移行する際にこのリファレンス・デザインを利用する、といった方法があるが、独自にオンボード電源の設計をする場合も少なくない。ロームでは、このような優れた特性を持つモジュールを実現できる部品選びと基板設計のノウハウをもって、お客様のサポートを行う体制を用意している。優れたICを選ぶのはもちろんだが、設計のサポートはユーザにとって非常に重要なポイントである。
 
アヴネットのFPGAキット向けローム製電源モジュールの1.2V出力。縦軸は20mV/div。
1.2V出力に対してリップルはわずか5.6mV。 
(クリックで拡大)

 まとめ

FPGAが必要とする電源仕様は上述の通りで、実はコネクタで接続するFMCの場合は配線が長くなったりと特性面ではより厳しい。こういった条件のもとで、7シリーズというハイエンドFPGA の電源要求を満足するモジュールを供給できるのは、優れた電源用 IC と電源設計のノウハウを持ち合わせている証であると言える。
また、ロームという日本メーカのリファレンス・デザインであることは、ユーザにとって大きな意味を持つ。国内メーカとしての品質・信頼性、供給体制、サポート、コミュニケーションといった面での安心感、そしてICだけはなくディスクリートや電気・電子部品も合わせて供給できるアドバンテージは大きい。

 関連資料

BD95601MUV-LB(1ch) 製品情報
BD95601MUV-LB(1ch) データシート
BD95602MUV(2ch) 製品情報
BD95602MUV(2ch) データシート
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