スタンレー電気株式会社

AEC-Q102準拠 車載用高出力赤外VCSEL

スタンレー電気株式会社(以下スタンレー電気)は、車載用電子部品の信頼性規格AEC-Q102に準拠した高出力赤外VCSELの量産出荷を開始した。これはスタンレー電気の顧客による、赤外VCSELを使用した世界初の車室内センシング機器向けである。

赤外線を使用したセンサーは様々な用途で利用されているが、近年その高性能化が急速に進んでいる。自動車分野では、ADAS(先進運転支援システム)関連アプリケーションの1つであるドライバー監視システム(DMS)に加え、普及が増加する乗員監視システム(OMS)にもセンサーが搭載される。これらのセンサー光源として、現状では赤外LEDが主に使用されており、スタンレー電気もその主要供給メーカーとなっているが、自動運転やADASの高度化により、従来の赤外LEDでは実現できない高性能なセンシングが必要になっている。

このようなニーズに応えるべくスタンレー電気は、長きにわたり培ってきた光学制御技術とLEDパッケージ製造技術により開発した、車載用高出力赤外VCSELを業界に先駆けて市場投入した。

VCSELとは

VCSELは、Vertical Cavity Surface Emitting Laser(垂直共振器型面発光レーザー)の略語で、半導体レーザーの一種である。従来の半導体レーザー(端面発光レーザー)は基板に対して平行方向にレーザー光を出射するのに対して、VCSELは基板に対して垂直方向に出射する。

VCSELの素子は小型、発光効率が高い、低消費電力、そして高い指向性が特徴である。2次元配列化が可能なことからパッケージとしての高出力化が可能であり、ギガ帯の高速パルス点灯(高速変調)ができる高速応答性も特徴となっている。


赤外VCSEL光源の優位性:LEDとの比較

先進車載赤外センシングアプリケーションにおけるVCSELの優位性は主に以下の4点で、赤外LEDとの比較を例に説明する。

  ①照射パターン
  ②応答速度
  ③発光スペクトル
  ④発光波長に対する温度変化の影響

①照射パターン:カメラの画角(FOV)に適した配光制御が可能
赤外LEDは円形で中心にピークがある配光となるが、VCSELは面発光レーザーであり、素子の2次元配列が可能なため、その照射は均一である。さらに、ディフューザーの装着により配光を長方形に制御可能である。下図のVCSELの配光は、ディフューザーによる2種類の照射角度の例である。この特徴は、ドライバー・乗員の監視アプリケーションの車室内全体の監視を行う乗員監視システム(OMS)などの高性能化に有効である。


②応答速度:高速なパルス点灯による高解像度化、広角化、リアルタイム化
VCSELは素子体積が小さいため、LEDでは不可能なギガ帯の周波数でのパルス点灯(オンオフ動作)が可能である。これにより、例えば赤外光による検知と測距を行うTOFの光源として使用した場合、高解像度化、広角化、リアルタイム化が期待できる。


③発光スペクトル:狭スペクトル発光により外乱光の影響が少なく、バンドパスフィルタによる損失も少ない
LEDに比べVCSELの発光スペクトルは非常に狭く、下図の例では940nmの標準値に対して数nmの範囲に収まる。バンドパスフィルタの通過帯域を狭くすることができ、また通過帯域を狭くしても出力の損失を低く抑えることができる。これにより、太陽光など外乱光の影響を極力低減できるので精度の高いセンシングが可能になる。


④発光波長に対する温度変化の影響:温度による変化が少ない
LEDに比べてVCSELの発光波長は温度変化に対して安定度が高いので、車載という温度変化の厳しい条件下においても、安定した性能が得られる。また、大電流で点灯させる場合の発熱に対しても性能を維持することを示す。

赤外光源を使用した車載アプリケーションの方向性

赤外線を使用した既存のセンシング技術は、マウスやレーザープリンターをはじめ、スマートフォンの顔認証、測距アプリケーション等、様々な用途で利用されているが、近年自動車の先進運転支援システム(ADAS)向けなど急速な高性能化が進んでいる。交通事故防止を目的としたドライバー監視システム(DMS)に加えて、乗員の危険を低減する乗員監視システム(OMS)も普及が始まっている。 現在これらには赤外LEDが多く使われているが、自動運転やADASの高度化に伴いより高性能なセンシングが必要となり、アプリケーションの進化に合わせて光源への要求も変化している。

例えば、ドライバーの視線やわずかな表情の変化も読み取り、車室内全域の人を確実に検知することが要求されるシステムでは、カメラの全撮影範囲をカバーしつつ、均一な赤外線を照射できる高出力な光源が必要となる。また、光による検知と測距を行うTOFカメラやLiDARでは、より高分解能なセンシングのために高速なパルス発光が必要となる。このような、広範囲にわたる均一な赤外線照射や、高速なパルス発光は、従来の赤外LEDでは実現が難しい場合が多く、それに対応する技術としてVCSELが注目されている。

スタンレー電気は、今後赤外VCSELが進化の鍵となるアプリケーションとして、以下を挙げている。

赤外VCSELによる
センシングの高性能化
進化するアプリケーション
自動車 セキュリティ 産業機器
■広角・広範囲化
■長距離化
■立体・距離の検知
■高精度・高解像度化
・ドライバー・乗員の監視 (DMS・OMS)
・非接触操作 (ジェスチャー、視線)
・LiDAR (ADAS、自動運転)
・緊急車両通報システム、他
・個人認証・顔認証
・侵入検知・飛び出し検知
・遠方監視、他
・ロボットの衝突防止
・製造ラインの製品検査
・荷物の形状識別と仕分け、他

スタンレー電気の高出力赤外VCSELの特徴

車載アプリケーションで使用する部品には、厳しい環境でも安定した性能と高い信頼性が求められる。スタンレー電気はヘッドランプ用などのハイパワーLEDで培ったパッケージ製造技術を用いて、高放熱・高信頼性のVCSELデバイスを提供する。さらに、ヘッドランプ開発で光を扱ってきた配光制御技術を用い、アイセーフを確保しつつ各アプリケーションに適応した配光を実現する。

車載用高出力赤外VCSEL製品コンセプト 採用技術
・車載品質対応:AEC-Q102準拠
・使用条件に最適化した配光と出力のラインアップ
・拡散配光によるアイセーフ確保
・高出力LEDで培った高信頼パッケージング技術
・徹底した硫化対策(Ag不使用)
・高放熱性能、低インダクタンス
・配光制御技術



高出力赤外VCSEL製品のラインアップ

現状、量産中のUDN1Z54、新製品のUEN1ZA9に加え、計画中の高出力タイプと発光波長850nmのVCSEL製品がラインアップ予定となっている。アプリケーションに応じた2種類の配光(照射角度FOV)のバリエーションが用意されており、アイセーフティはいずれもIEC60825-1&CFR Part1040.10の安全基準クラス1であり、人に向けて照射しても問題がないように設計されている。パッケージは全て共通で、はんだパッドも同一となっている。また、各々にVCSELのみのバージョンと、光出力モニタリング用のフォトダイオード(PD)を搭載したバージョンがある。今後、継続的なラインアップ拡張が計画されている。

製品 UDN1Z54 UEN1ZA9 High-Power type *1 850nm type *1
主用途 DMS OMS、TOF
光出力(ピーク) 2.1W 2.8W 6.0W 3.0W
順電流 IF 2.7A 4.0A 4.0A 4.0A
発光波長 940nm 940nm 940nm 850nm
照射角度 FOV (x)×(y) *2 54°×43° 110°×85° 110°×85° 110°×85°
共通仕様 パッケージ:3.5×3.5×1.2mm、モニタリングPD有/無バージョン

*1:計画中、*2:光出力50%の時の配光角度
※記載の特性値は、Ta=25℃、提示の順電流 IFにおける300μsパルス点灯時の標準値。


パッケージ(クリックで拡大)


UDN1Z54の基本特性および最大定格


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 <最大定格>
・最大電流:IF =6A Pulse (tw≦0.1ms, duty≦1%)
・ジャンクション温度:125℃  
 
・動作温度:-40 to 125℃
・保存温度:-40 to 125℃

まとめ

スタンレー電気は、自動運転やADASアプリケーションの高性能化を見据え、さらにその進化を推進すべく、車載規格AEC-Q102に準拠した高出力赤外VCSELを開発し、業界に先駆け量産化を開始した。これは、スタンレー電気が長きにわたり培ってきた光源制御技術と車載用デバイス製造技術に裏付けられている。すでに、既存の高出力赤外LEDでは近年のアプリケーションの進化に追従できないケースが増えており、スタンレー電気は優れた特徴を持つ車載用高出力赤外VCSELをもって対応を進める。

製品ラインアップは、現在計画中のものを入れて近々4製品が揃う予定であり、今後も各種アプリケーションに合わせた赤外VCSEL製品の開発を強化、継続する。

関連情報

  スタンレー電気の赤外VCSELについて
  赤外VCSEL製品:UDN1Z54
  赤外VCSEL製品:UEN1ZA9
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