株式会社トーキン(以下トーキン)は、世界で初めてタンタルコンデンサの陰極層に導電性高分子を採用することに成功し、チップ型ポリマータンタルコンデンサ「NeoCapacitor®」を製品化したメーカーである。そして、ポリマータンタルコンデンサでは世界最大のコンデンサメーカーKEMET社(米国)との合弁*1により、KEMET社のポリマータンタルコンデンサ「KO-CAP®」を合わせたポリマータンタルコンデンサの世界シェアは60%*2でNo.1となっており、両社の幅広いラインアップを様々な市場に展開している。
先頃トーキンは、車載グレードのチップ型ポリマータンタルコンデンサの新製品を発表した。新製品の「PS/Uシリーズ」および「F/PUシリーズ」は、小型で大容量、低ESR、高い安全性を持つポリマータンタルコンデンサの特長をそのままに、広い使用温度範囲と各種信頼性評価に加えAEC-Q200への準拠、そしてIATF16949取得工場で生産される。これらの新シリーズは、先進運転支援システム(ADAS)やインフォテインメントなどの高機能化が著しい車載機器や各種産業機器など、長寿命・高信頼性が求められつつ省スペース化が必要な高性能機器への採用が期待されている。
車載グレードのポリマータンタルコンデンサ | *1:2017年にKEMET社の完全子会社となり、KEMET社が2020年にYAGEO(台湾)の子会社となったことから、現在はYAGEOの子会社となっている。 *2:2017年、数量ベース。トーキン キャパシタ(事)販売推進部推定。 |
|
![]() |
![]() |
|
PS/Uシリーズ B2ケース(3528-21) 3.5±0.2×2.8±0.2×1.9±0.1(mm) |
F/PUシリーズ Sケース(3216-12) 3.2±0.2×1.6±0.2×1.1±0.1(mm) ※F/PUシリーズは下面電極構造 |
ポリマータンタルコンデンサは、陽極にタンタル(Ta)、陰極に導電性高分子(ポリマー)を使用したタンタルコンデンサである。材料であるタンタル、そしてタンタルコンデンサには問題があると言うことで敬遠する回路設計者が少なからず存在するが、実際は過去の情報や誤解が多い。ポリマータンタルコンデンサの優れた性能によって、機器設計の課題を解決できる機会を誤解によって失わないように、まずはよくある誤解と事実をまとめた。
① タンタルの原材料は枯渇する?
タンタルの地球規模の推定埋蔵量と資源は多く、おそらく今後500年の地球規模の需要を満たすのに十分以上。
出典:アメリカ地質調査研究所 Fact Sheet 2014-3054 June-2014
② タンタルは頻繁に原材料の供給問題が発生する?
近年コンデンサメーカーは原材料の供給不足を防ぐため多くの取り組みを行っている。2000年~2010年までは、①鉱石がシングルソース、②高コストな地下採掘、③鉱石価格がコストを下回ると価格が回復するまで採掘を休止、などの状況があったが、2010年以降は、①複数の国、鉱石採掘場所からの調達、②露天掘りと地下採掘の混合、③複数の国や鉱山による市場価格の決定、によって安定な供給が図られている。
③ タンタルは紛争鉱物なので使用してはならない?
すず、タンタル、タングステン、金はドット・フランク法にて規制対象鉱物資源として定義されており、RMI(Responsible Minerals
Initiative)によってそれらの鉱石を製錬する精錬所に問題が無いことを認定する制度がある。そしてRMIによって認定された精錬所で精錬された原材料(コンフリクトフリー)の使用は認められている。トーキンとKEMETではすべての原材料がRMIに認定された精錬所由来であることを確認していることに加え、2012年にタンタルの精錬粉末事業を傘下に収めている。鉱石の製錬から最終製品であるコンデンサの製造まで垂直統合しているため、より厳格にコンフリクトフリーを実現できる体制を構築した。
④ タンタルコンデンサは故障すると発火する?
従来の二酸化マンガン(MnO2)を陰極に使用したタンタルコンデンサは、誘電体層にクラックなどが生じた場合熱によって二酸化マンガンから酸素が発生し、タンタルと反応して発火する可能性がある。ただし、ポリマータンタルコンデンサは熱が発生してもポリマーが酸化、絶縁化して発火を抑制する(詳細は後述)。
トーキンのポリマータンタルコンデンサは、従来のタンタルコンデンサの陰極に使用されていた二酸化マンガン(MnO2)の代わりに、導電性高分子(ポリマー)を使用したコンデンサである。異なるのは陰極材料のみで、従来のタンタルコンデンサの小型大容量という特長を継承し、二酸化マンガンと比較して導電率が高い導電性高分子を用いることにより等価直列抵抗(ESR)を大幅に低減している。また、二酸化マンガンタンタルコンデンサは故障発生時の発火が問題とされているが、ポリマータンタルコンデンサは、導電性高分子材料により高い安全性を確保している。
小型大容量による省スペース化
ポリマータンタルコンデンサの特長である小型大容量により、複数のMLCC(積層セラミンクコンデンサ)構成を例えば1個で置き換えることができ、基板スペースの削減が可能である。また、チップ型ケースであることから低背化要求にも対応できる。
![]() |
![]() |
良好なDCバイアス特性と温度特性により容量変動対策が大幅に軽減
ポリマータンタルコンデンサには、MLCCに見られるDCバイアスによる静電容量の減少がほとんどなく、温度変化による静電容量の減少も少ないことから、これらを見込んだ静電容量の見積もり作業やコストの追加が大幅に軽減可能である。静電容量の変動は、回路が正常に動作しない、温度変動によって動作に異常が生じるなどの問題につながるので、非常に重要なポイントである。
![]() |
![]() |
(クリックで拡大) |
音鳴りがない
MLCCはセラミック素材特有の圧電効果により、条件によって音鳴り(音響ノイズ)が生じるが、ポリマータンタルコンデンサには音鳴りはない。使用する機器によって音鳴りは大きな問題となるので、対策が及ばない場合はコンデンサの種類の変更が必要になる場合がある。
高い安全性
タンタルコンデンサが敬遠される大きな理由として、故障時に発火の恐れがあることが挙げられる。これは事実ではあるが、発火の可能性があるのは従来の陰極が二酸化マンガンのタンタルであり、それも信頼性の確認が行われていないタイプのものである。トーキンのポリマータンタルコンデンサは陰極に導電性高分子を使用したことで、この問題を抑制している。以下に、それぞれの故障時の振る舞いを示す。
従来のタンタルコンデンサは、二酸化マンガンがセラミックであり、温度が上昇してもその電気抵抗が著しく高くならないため電流が流れ続け、 タンタル(Ta)の発火に至る可能性があるが、ポリマータンタルコンデンサは、ポリマーの酸化により絶縁化され電流が抑制される。
高信頼性、少ないディレーティング要求
トーキンのポリマータンタルコンデンサは、ディレーティング要求が少ない。そのため、条件によってはより耐圧の低いものを使用できる。ディレーティング要求はメーカーによって異なるが、その根拠となるのは製品の信頼性である。例として、他メーカーとのディレーティング要求の比較を示す。
PS/UシリーズおよびF/PUシリーズは、車載グレードのポリマータンタルコンデンサで、AEC-Q200に準拠しIATF16949取得工場にて生産される。基本的な特長や安全性は前述の通りであるが、両シリーズともに小型ケースを採用しており省スペース化に有用である。車載グレードとしての主な特長と、今回リリースされたラインアップを以下に示す。
主な特長
・高温負荷:125℃-0.67定格電圧、業界最先端の2000時間*を実現 *F/PUシリーズは1000時間
・耐湿負荷:85℃85%RH、定格電圧、1000時間
・幅広い使用温度範囲(-55℃~125℃)
・低ESRで高許容リップル電流
・高い安全性
・AEC-Q200準拠
・IATF16949 取得工場にて生産
・PPAP(生産部品承認プロセス)、PSW(部品提出保証書)および変更管理要求に対応
PS/Uシリーズ
品名 | 定格電圧(VDC) | 静電容量(µF) | ESR(mΩ) | 許容リップル電流(mA) | 漏れ電流(µA) |
PSUB20E227M025B | 2.5 | 220 | 25 | 2320 | 55 |
PSUB20E337M025B | 2.5 | 330 | 25 | 2320 | 165 |
品名 | 定格電圧(VDC) | 静電容量(µF) | ESR(mΩ) | 許容リップル電流(mA) | 漏れ電流(µA) |
FPUA20E107M100B | 2.5 | 100 | 100 | 770 | 75 |
FPUA20J336M100B | 6.3 | 33 | 100 | 770 | 62.4 |
FPUA20J336M200B | 6.3 | 33 | 200 | 570 | 62.4 |
FPUA20J476M100B | 6.3 | 47 | 100 | 770 | 88.8 |
FPUA20J476M200B | 6.3 | 47 | 200 | 570 | 88.8 |
アプリケーション
PS/UシリーズおよびF/PUシリーズは、車載システム、特にADASを構成するデバイスやインフォテインメントなどで省スペース化が必要な用途や、長寿命・高信頼性が求められる産業用PCや各種産業機器での採用が期待されている。ラインアップの定格電圧と静電容量から、高性能CPU、GPUやSoCの低電圧大電流電源ラインなどでのデカップリングやフィルタリングが主な直接的な用途となる。
トーキンのPS/UシリーズおよびF/PUシリーズは、車載グレードのチップ型ポリマータンタルコンデンサで、車載システムや長寿命・高信頼性が求められる各種産業機器などに向けた新製品である。広い温度範囲と信頼性評価に加えて、近年の車載グレードの基本となるAEC-Q200準拠に加えて、IATF16949 取得工場にて生産される。
タンタルコンデンサと聞くと、特に故障時の発火の問題などから敬遠する向きが少なくないが、ポリマータンタルコンデンサは従来の二酸化マンガンタンタルコンデンサの小型で大容量という特長をそのままにESRを大幅に低減し、信頼性と安全性が十分確保されたタンタルコンデンサである。小型大容量、優れたDCバイアスおよび温度特性などの特長から、MLCCやアルミ電解コンデンサから置き換えることで、特に省スペース要求が厳しいアプリケーションへの貢献が期待できる。
トーキンは、国内において車載グレード品を広く展開する方針の基に、これらのシリーズのサポートを強化し、ラインアップ拡充を図る所存である。