従来の産業機器のイメージとして、まず最初に浮かぶのは温度、振動、ノイズといった厳しい環境での使用であろう。そのため、これらに耐えうる堅牢さが最優先事項とされ、サイズや電力効率などには多少の寛容さがあったはずである。しかしながら、昨今の産業機器においては、他の電子機器と同様に、小型化と省電力化の波が押し寄せている。 | モジュール型ラックPLC![]() |
![]() ![]() モジュール型マイクロPLC |
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代表的な産業機器の一つであるPLC(プログラマブルロジックコントローラ)を例にとると、従来からのスタンドアローン型の大き目なPLCから、モジュール型ラック形式のPLCが増えている。可能な限りコンパクトで場所を取らない筐体に、可能な限りのコントローラを搭載する。この場合、まずはコントローラ自体の小型化、モジュール化が必要になり、回路基板は高密度になり、タイトなフォームファクタが要求される。 | ||||||
また、多数のモジュールを狭いスペースに詰め込むことにより、システム全体の消費電力が上がるので、個々のコントローラの消費電力を低く抑えることが必須となる。さらには、筐体内は高密度で空間が少ないため空気の流れが悪くなり、熱がこもる傾向がある。しかし、スペースの関係で単純にファンを大きくすることができず、搭載モジュール自体の発熱を抑える必要が出てくる。つまり、電源やパワーデバイスには高効率化が要求される。これらは、サーバや通信基地局などと同様の課題である。 | ![]() スタンドアロンブリックPLC |
要求事項 | 課 題 |
モジュール型ラックなど、スペースに制限がある筐体や設置場所に、より多くのコントローラを搭載したい(スペース効率を上げたい) | ・機器の小型化、モジュール化 ・消費電力を低減 ・高密度搭載にて冷却が低下するので発熱を抑える |
新興国の需要が増加しており、重要な成長市場となっている | ・低コスト化:小型化(マイクロPLCなど)、モジュール化 |
電源関連IEC61131-2、IEC60664-1、過電圧カテゴリII、SELV/PELVなどへの準拠、対応 | ・規格に準じた仕様、保護を備えた設計と部品選択 ・24Vフィールド電源などからの過渡電圧 |
産業機器に使われている電源ICの現状を考えてみると、以前から高耐圧のダイオード整流式の降圧回路方式(一般にBuckコンバータと呼ばれる)が標準的に利用されている。この方式は、コントローラICとハイサイドのスイッチングトランジスタおよび整流用のショットキダイオードの組み合わせで、回路構成がシンプルな点が特徴で、一般に効率は80%台前半である。 | ダイオード整流式降圧回路![]() 同期整流式降圧回路 ![]() |
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それに対し、90%を超える効率が得られ省電力動作モードを備えることなどから、PCや携帯機器など効率重視アプリケーションに広く使われているのが同期整流式の降圧コンバータである。同期整流は、ダイオード整流式のダイオードをトランジスタに置き換えたことで効率は高いが、一般的には外付け部品が多く回路構成は複雑になる。 | ||||||
共に、外付け部品を減らし実装面積を小さくするために、取り込み可能な素子の集積化が進んでいる。15W程度までの出力なら、どらもスイッチングトランジスタを内蔵しているタイプがある。ただし、ダイオード整流式では、要件を満たすショットキダイオードの内蔵が困難なため基本的には外付けになる。対して同期整流式では、ダイオードがトランジスタに置き換わるだけではなく、ハイサイドのトランジスタと共に内蔵可能となる。これは、部品点数が減るだけではなく、外付けの半導体素子(ショットキダイオード)が不要になることで、コストのみならず調達面のリスク因子も低減する。 | ||||||
しかしながら、高耐圧で電流容量の大きいスイッチングトランジスタをICに集積(ワンチップ化)するのは簡単ではなく、高度な高耐圧プロセス技術が必要となり、性能面でのトレードオフ、そして熱の問題にもチャレンジすることになる。40Vぐらいまでのスイッチングトランジスタを内蔵した電源ICは多々あるが、60V耐圧の内蔵型は現状では稀である。多くは、スイッチングトランジスタを外付けにすることで、スペースとコストを犠牲にして対処していることでも理解いただけるだろう。 ここで、先に記した最近の産業機器の要求である、1)小型、2)低消費電力、3)低発熱(高効率)、4)高耐圧、に照らし合わせると、スイッチングトランジスタ内蔵型の高耐圧同期整流式降圧コンバータが、産業機器用電源のニュースタンダードとして非常に有力であるといえる。 |
MaximのMAX17503は、60V耐圧、2.5A出力の同期整流式の降圧DC/DCコンバータICである。基本構成は、一般的な同期整流式コンバートであるが、産業用途を意図した特徴をもつ。 | MAX17503の評価ボード ダイオード整流に比べ実装面積は半分 基板中央がMAX17503(4×4mm) ![]() PFMモード、5V出力時の効率 低負荷時にも高効率を維持 ![]() PWMモード、5V出力時の効率 固定周波数動作によりノイズ処理が容易 ![]() |
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第一には、前述の電源に対する許容電圧などに適合するために60Vの耐圧が与えられていることだ。単純な24Vバスからの降圧であれば、40V耐圧のものでも対応可能だが、過電圧カテゴリIIやSELV/PELV回路に対応するには60V耐圧は必須である。60V耐圧で2.5A出力(ピークスイッチ電流は4A以上)の能力をもったスイッチングトランジスタを内蔵した同期整流式降圧コンバータは、市場にはほとんどないはずで、このアドバンテージは大きい。 | ||||||||||||||
第二は、徹底した集積化が行われ、外付け部品はインダクタ1個の他は抵抗2本とコンデンサが5個で済む点である。同期整流にしたことで、ダイオード整流式では必要なショットキダイオードは不要となっている。また、2個の同期スイッチ(NchパワーMOSFET)は内蔵され、ハイサイドMOSFET用のブートスラップもコンデンサ1個だけある。位相補償回路も内蔵されており、部品削減だけではなく設計も簡便になる。これにより、実装面積はダイオード整流式コンバータの半分にすることが可能である。 | ||||||||||||||
最後に、効率が93%と非常に高いことがあげられる。一般に高耐圧仕様のものは、性能面で何らかの妥協を強いられる場合が多い。MAX17503は60Vの高耐圧でありながら、同期整流でもトップクラスの高効率を達成している。これは、上述の低消費電力化と発熱の低減に大きく貢献する。また、動作モードをPFMにすることで、低負荷および待機時も高効率を維持することができる。
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