Maximが産機市場の潜在ニーズを着実に反映 業界最高水準の絶縁耐圧と静電耐量を達成したRS-485トランシーバ

Maxim Integrated(以下Maxim)は、産業分野に向けた様々なICやリファレンスデザインを積極的に展開するなか、先ごろ、絶縁型RS-485/RS-422トランシーバの新ファミリを発表した。
新絶縁型RS-485/RS-422トランシーバ評価キットMAX149X2
この新ファミリは、ロジック入出力(UART)側とトランシーバ(ケーブル)側がガルバニック絶縁された絶縁型で、RS-485 EIA/TIA-485およびPROFIBUS-DPに準拠する。最大5kVRMSの高絶縁、35kV(HBM)のESD耐性、フェイルセーフと各種保護機能、105℃の動作温度といった堅牢性と、トランシーバ側絶縁電源構成用のトランスドライバやLDOを内蔵したことで、設計が簡単になり小型化にもつながるのが特長である。
RS-485/RS-422は、長い歴史をもつ産業機器における定番の標準通信インタフェースであることから、インタフェースとしては成熟期にあるといえる。しかしながら、特に産業機器市場には根強い高信頼性ニーズがあり、Maximはそれに応えるべく、従来品に対し信頼性の向上を図り、同時に高効率化、小型化にも貢献するRS-485/RS-422の新ファミリを投入した。
(取材:高橋 和渡/f プロジェクト・コンサルティング)

産業機器市場はさらに高い堅牢性と信頼性を必要としている

産業機器には、その使用環境、耐用年数、安全性といった面から、構成部品にも高い堅牢性と信頼性が求められるのは言うまでもない。RS-485インタフェースの例ではバス方式を採るため、ラインは長く様々な機器が接続される。このため、グランド電位差やノイズの問題が潜在的に存在し、さらに機器の取り付け/取り外しなど取り扱いに関するハザードも少なくない。
こういった点から、RS-485/RS-422に限らずほとんどのインタフェースICは、長い年月をかけて確実な通信と壊れにくさの改良を積み重ねてきている。しかしながら、現実的には産業機器市場はさらなる堅牢性と信頼性を継続して求めている。
Maximはこのような産業機器市場のニーズに対し、絶縁耐圧と静電耐性の向上を図り、フェイルセーフと各種保護機能を充実させ、動作温度105℃を保証したファミリを、従来のラインアップに追加した。
絶縁耐圧:最大5kVRMSを実現
この新ファミリは、ロジック入出力(UART)側とトランシーバ(ケーブル)側がガルバニック絶縁された絶縁型であり、容量性絶縁方式では業界トップクラスの高絶縁を実現している。これはMaximがIndustry4.0/Micro PLCをはじめとした産業機器向けに展開しているリファレンスデザインにも採用されている、高速デジタルアイソレータMAX14934シリーズと同様のテクノロジーによるものである。
RS-485/RS-422における絶縁は、グランドループを切断することでポート間のグランド電位差の影響を排除したり、ノイズを低減して通信の完全性を高めるために使われる手法である。このファミリの最大絶縁耐圧(VISO)は5kVRMS(基本絶縁)に高められており、最大繰り返しピーク絶縁電圧(VIORM)は1200V、最大動作絶縁電圧(VIOWM)は848VRMSを達成している。また、パッケージに16ピンのワイドSO(300mil/7.5mm幅)を採用することで、沿面距離と空間距離を確保している。

絶縁に関する仕様の一覧を表に示す。

絶縁関連仕様一覧:MAX14943の例 (クリックで拡大)
ESD耐性:35kV(HMB)、10kV(IEC 61000-4-2接触放電)を確保
機器の生産工程のみならず、設置後の取扱時にも発生するESD(静電気放電)に対する保護のために、すべての端子にESD保護構造が組み込まれている。このESD保護構造は、通電動作時および無通電時の両方において機能し、以下の条件においてラッチアップや損傷が発生しないことが確認されている。(MAX14943の例)
 ・HMB(人体モデル):±35kV
 ・IEC 61000-4-2(気中放電):±12kV
 ・IEC 61000-4-2(接触放電):±10kV
ドライバ出力保護:過電流、発熱を防ぐ2種類の保護
障害やバス競合が発生すると、ドライバ出力に過大な出力電流が流れ、消費電力が増大し大きな発熱が発生する。これを防ぐため、2種類の保護を備えている。1つは出力段のフォールドバック電流制限で、全コモンモード電圧範囲にわたって短絡に対する保護を瞬時に行う。2つ目はサーマルシャットダウン機能で、チップ温度が+160℃(typ)を超えると、ドライバ出力を強制的にハイインピーダンス状態にして出力電流を遮断し、+145℃(typ)を下回ると復帰する。
フェイルセーフ:レシーバ入力短絡/開放と低電圧状態からの保護
レシーバ入力が短絡または開放状態の場合、または終端処理された伝送ラインに接続され全ドライバがディセーブルされている場合に、レシーバ出力がロジック「H」になることを保証する、真のフェイルセーフ回路を搭載している。
また、トランシーバ(ケーブル)側またはロジック入出力(UART)側の電源が動作レベル以下の場合に、ドライバをディセーブルする、低電圧ロックアウト(UVLO)機能も搭載している。
高温動作対応、高信頼性、各種安全規格に対応
このファミリには、動作温度範囲が通常の産業グレード-40℃~+85℃より拡張された、-40℃~105℃対応品が用意されている。特に、20Mbps/25Mbspの高速データレート対応品の場合は、正常動作においても相応の発熱が生じ、動作保証温度の拡張が求められている。
また、一般に耐用年数の長い産業機器は高信頼性部品を必要とするが、このファミリは動作温度の拡張がなされているにもかかわらず、30年以上の定格動作寿命を提示している。絶縁耐圧、ESD耐性といった堅牢性による可用性の向上に加えて、長寿命のために高い信頼性が確保されている。
さらに、産業機器では非常に重要な各種安全規格にも対応している。現在、UL1577規格認証を取得済み、cUL、VDE 0884-10、TUVに関しては申請中である。

重要課題である高効率化と小型化にも対応

省力化と小型化はすべての電気/電子機器に対する要求事項であり、産業機器においても重要課題である。このファミリは、トランスを利用した絶縁電源を簡単に作れるように高効率のトランスドライバを内蔵している。また、その非安定のトランス出力をトランシーバの電源として安定化するためのLDO(低損失リニアレギュレータ)も内蔵した。これにより、回路の部品点数を削減し小型化を推進し、高効率のトランスドライバは電力の変換効率を向上させる。
MAX14943:20Mbps半二重PROFIBUS DP/RS-485トランシーバ 絶縁耐圧5kVRMS、ESD保護±35kV、トランスドライバ内蔵
トランスドライバによる絶縁電源と内蔵LDOを利用(クリックで拡大)
高効率トランスドライバ
絶縁型の通信には、ロジック入出力側とトランシーバ側はデータだけではなく電源も絶縁されている必要がある。個々に電源を用意する方法もあるが、ロジック入出力側の電源からトランスを利用して電力を伝送する絶縁電源を作ることが可能である。このファミリには、トランスの他に必要となるトランスドライバを内蔵した品種が用意されている。
内蔵のトランスドライバはプッシュプル式で、効率の最適化を考慮した450kHz(typ)で動作し、ドライバの出力抵抗は0.6Ω(typ)と低く抑えられている。これらによって、約80%の高い変換効率を達成可能である。なお、トランスは、汎用品が利用可能で、ICのデータシートに推奨品が提示されている。
また、過電流制限を備えており、大容量負荷の充電時や短絡時に内蔵トランスドライバを保護する。電流制限は2段階のレベルで行われ、サイクル単位でドライバ電流を監視し、短絡が除去されるまで電流制限を行う。発熱に関してはサーマルシャットダウンが作動し、過熱から保護されるので安全性を確保できる。
LDO
トランスを介して生成された絶縁電圧はトランシーバ側の電源として使用するが、一般に安定化が必要になる。そのために、このシリーズは300mA出力のLDOを内蔵した。これにより、外付け安定化電源を用意する必要がなく、小型省スペース化に寄与する。
ちなみに、トランスドライバやLDOは必ず使わなければならないわけではなく、使わない場合はトランシーバ側電源ピンであるVDDBピンに外部電源から電力を供給することが可能だ。

多様な要求仕様に対応する18品種の絶縁型RS-485トランシーバファミリ

先に特長を説明してきたが、ここでファミリの概要を説明する。このファミリは、アプリケーションに応じて最適な構成ができるように、現状18品種が用意されている。全二重/半二重、データレート、絶縁耐圧、トランスドライバの有無などによるマトリクスになっている。表は、絶縁電圧を除く同機能同性能のデバイスに対して、絶縁耐圧が2.75kVRMSと5kVRMSの2バージョンが用意されていることを示している。
製品名 伝達 速度
(Mbps)
I 絶縁耐圧
(kVRMS 60秒)
ESD
(kV)
内蔵LDO
(V) 
TRX電源
(V)
トランス
ドライバ
DEM
ビン
 レシーバ
負荷
動作温度
(℃)
MAX14938/14941* 半二重 20 2.75/5 35 5 5 1/4 105
MAX14939/14942* 半二重 20 2.75/5 35 5 5     1/4 105
MAX14940/14943 半二重 20 2.75/5 35 5 5 1/4 105
MAX14945/14948* 半二重 0.5 2.75/5 30 5 5     1/8 85
MAX14946/14949 半二重 0.5 2.75/5 30 5 5 1/8 85
MAX14852/14856* 全二重 0.5 2.75/5 35 3.3 3.3, 5     1/4 105
MAX14853/14857 全二重 0.5 2.75/5 35 3.3 3.3, 5   1/4 105
MAX14854/14858* 全二重 25 2.75/5 35 3.3 3.3, 5     1/4 105
MAX14855/14859 全二重 25 2.75/5 35 3.3 3.3, 5   1/4 105
※*付きの品種は近日リリース予定
※TRX電源:トランシーバ側を外部電源駆動する場合の動作電圧。
※DEMピン:Driver Enable Monitor出力。
※レシーバ負荷:一般品を1とした場合の該当製品の負荷。一般品のバス接続可能数量は32であるが、1/4品は128が可能となる。
※動作温度範囲:最高温度のみを表示。最小はすべて-40℃。
※データレート20Mbp品は、EIA 61158-2 Type 3 PROFIBUS-DPにも対応

まとめ

Maximの新しい絶縁型RS-485/RS-422トランシーバファミリは、産業機器市場が必要とする堅牢性と信頼性を向上させるために、業界トップクラスの絶縁耐圧とESD耐性を達成し、小型化および省力化のためにトランスドライバとLDOを内蔵した新しいラインアップである。成熟期にあるといってもいいRS-485/RS-422トランシーバICではあるが、産業機器市場はさらなる改善を欲しているのが実情である。このニーズに対してMaximは、業界の先陣を切って改良品を用意した。
思い起こせば、Maximは単一5V動作RS-232トランシーバIC開発の先駆者であり、多岐にわたるインタフェースICを開発してきたメーカーである。その立場と実績を踏まえ、産業機器市場特有ともいえるニーズをしっかりと受け止め、業界トップクラスの堅牢性と信頼性を実現した製品を投入してくる姿勢は、産業機器市場にとって有益なメーカーである証しであるといえる。

関連情報

MAX14934:4チャネル、5kVRMSデジタルアイソレータ 製品情報
MAX14783E:±35kV HBM ESD保護、高速3.3V/5V RS-485/RS-422トランシーバ 製品情報
MAX14786E:高速通信用フルデュプレックス、±35kV ESD保護、RS-485トランシーバ 製品情報

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