業界初・産業用途プログラマブル高電圧ミクストシグナルI/O

Maxim Integratedが先ごろリリースしたMAX11300は、業界初*となる産業用途に向けたバイポーラ高電圧のプログラマブルミックスドシグナルI/Oである。PIXITMProgrammable mIXed‐signal I/O )と呼ばれるこのICは、20のI/Oポートを備え、各ポートにADC、DAC、アナログスイッチ、GPIO、温度センサーといった機能を自由に設定することができるプログラマブルデバイスである。 *Maxim社プレスリリース 2014/6/17による)
MAX11300:PIXI プログラマブル高電圧ミックスドシグナルI/O
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Maximは、産業用途に対するICラインアップとリファレンスデザインなどのサポート体制を拡充しているが、PIXIもその一環の製品である。PIXIの産業分野への対応としては、プログラマブルデバイスでありながら産業用の高電圧を扱えるI/Oを実現し、動作温度範囲は産業グレードを超える-40℃~+105℃に拡張されている。また、類似のプログラマブルデバイスと比較すると自由度と柔軟性が高く、プログラミングが非常に簡単であることも特徴であるという。
(取材:高橋 和渡/f プロジェクト・コンサルティング)

プログラマブルデバイスのメリットと課題

PIXIの詳細に入る前に、プログラマブルデバイスのメリットと課題、特に産業用途に関してレビューする。プログラマブルデバイスは、PROMからPLDやFPGAなど幅広い。ここでは、機能やポートが外部から設定できるものをイメージしていただきたい。
端的には、プログラマブルデバイスは汎用性が高いので、一つのデバイスを異なるシステムで使用することができる。その利便性をうまく利用できれば非常に有用な部品であり、発注や在庫管理にも貢献する。また、システム変更にも柔軟に対応でき、少量生産にも対応しやすい。課題としては、プログラマブル本来の機能や性能を完全に使いこなせないことがある。また、プログラムに手間がかかることも課題となる。産業用途を前提にすると、産業機器では標準的な±10Vの電圧を直接処理できるものは非常に少ない。つまり、便利なのだが産業用途では性能や仕様が合わないという実情があるようだ。
メリット 課題
1種類のデバイス(IC)で異なるシステム要求に対応できる。
システム変更の際にはプログラムを変更して再設定することで対応可能。
部品数と実装面積を大幅に削減できる。
IC内部で機能の配置や結線がなされ、基板上で配線を引き回すことがなく、性能面でも最適化される。
少量生産でも対応が容易。
機能や設定の制限により機能構築に妥協を強いられる場合がある。
搭載機能の精度や性能が低い。
プログラミングに手間がかかる。
産業機器では標準的な±10Vの電圧を直接処理できるものが非常に少ない。

産業機器用途を前提に開発されたPIXI

PIXIに搭載されている機能と特徴を確認する。搭載機能はADC、DAC、GPIO、温度検出で、GPIOを使いロジックレベル変換とアナログスイッチも構成することができる。温度検出を除く機能は、全ポート、つまり最大20ポートに割り当てることができ、柔軟性と自由度が高い。
産業機器用途を前提に各ポートが+10Vまたは-10Vまでの正負の高電圧を扱えることに加えて、各搭載機能の性能が高い点にも着目したい。ADCは最大400kspsのシリアル12ビットで、INL ±2.5LSB、DNL ±1LSB 、SINAD 70dBが確保されている。DACは同じく12ビットで、INL ±1.5LSB、DNL ±1LSB、出力は25mAをドライブ可能なバッファ型になっている。また、ADCとDAC両方の基準電圧となる内蔵リファレンスは、2.5V±0.24%、±25 ppm/℃と高精度高安定である。これらの精度や性能は、単体の高精度タイプのICと同等である。こういった性能や仕様をプログラマブルデバイスで実現できるのは、高性能アナログICを主軸とし産業機器を熟知しているメーカーならではである。
以下に、基本的な搭載機能と特徴をまとめた。このタイプのデバイスを使うには、まずはどんな機能があるのかを知って、自身の設計にどのように展開できそうかイメージすることがスタートラインになると思う。詳細に関しては下の「関連情報」からアクセスできる。
ポート
全20ポート
・ADC入力、DAC出力、GPI/GPO、レベル変換器、アナログスイッチに構成可能
・高電圧、バイポーラ:最大+10Vまたは-10V
ADC
最大20ポート
・12ビット、シングルエンドまたは差動入力
・ADC入力電圧範囲:0~+10V、-5~+5V、-10V~0V、0~+2.5V(ADCに直接接続)
・サンプル平均化機能:ADCポートごとにサンプル回数2、4、8、16、32、64、128を設定可
・高精度:INL ±2.5LSB、DNL ±1LSB(ミッシングコードなし)、SINAD 70dB @400ksps
・スループット:200、250、333、400kspsを選択可能
DAC
最大20ポート
・12ビット、25mAドライブバッファ出力
・DAC出力電圧範囲:0~+10V、-5~+5V、-10V~0V
・高精度:INL ±1.5LSB、DNL ±1LSB、セトリング時間40μs(typ)
GPIO
最大20ポート
・GPI入力範囲:0~+5V 、スレッショルドは0~+2.5Vの範囲で個別に設定可能
・GPO出力範囲:0~+10V
・GPIとGPOの組み合わせによる双方向ロジックレベル変換器を構成可能
・隣接するポート間でアナログスイッチを構成可能:オン抵抗60Ω
電圧リファレンス ・ADCおよびDACの内蔵電圧リファレンス:2.5V±0.24%、±25 ppm/℃
・外付けリファレンス電圧範囲:ADC=2~2.75V、DAC=1.25~2.5V
・ADCポートのリファレンス電圧は個別に選択可能
温度センサー ・内蔵および外付け、精度±1℃以下(typ)
通信インタフェース ・20MHz SPI/QSPI、1.8V~5.0Vロジックレベルに対応(I2C仕様のMAX11301も用意)
電源 ・アナログ電源:+5V、デジタル電源:1.8V~5.0V、ポートドライバ電源:-12.5V~+12.5V
パッケージ ・40ピン6mm×6mm TQFNまたは48ピン9mm×9mm TQFP

設定は専用ツールで簡単、評価キットも用意

上述の課題の中に、プログラマブルデバイスを使用するために必要なプログラミングに手間と時間を要する点を挙げた。一般的にはプログラミングツールが用意されているが、PIXIも同様に専用のツールが用意されている。PIXIのツールはドラッグ&ドロップのシンプルなGUIで、ポートに機能を簡単かつ迅速に設定できることを特徴としている。右の写真は設定ツールの画面であるが、基本的に機能ブロックをドラッグ&ドロップし、ポートに結線するだけである。また、PCと接続するためのPMOD、評価キット、リファレンスデザインも用意されており、キットを使ってすぐにプログラムと評価が始められる。
MAX11300 構成設定用ソフトウェア
ドラッグ&ドロップのシンプルなGUIで簡単に設定(クリックで拡大) 
使い勝手に関しては文字での説明より、Maximのホームページに説明動画があるので、是非そちらを参照することをお勧めする。

アプリケーションは広範

高機能かつ高性能で自由度が高いプログラマブルI/Oゆえに、その応用範囲は広い。産業用自動化分野では、NC工作機、システム制御、モニタなど、計測分野ではデータ変換や実験用電源、通信分野ではパワーアンプ、光トランシーバ、レーザーのバイアスとモニタなど、PIXIのもつ利便性と性能は多様なアプリケーションで活用できる。
以下はいずれも1個のPIXI:MAX11300を使った応用例で、左下はFPGAの電源モニタおよびファンとLEDの制御、そして外部温度モニタ機能を構成、右下は基地局用途のパワーアンプのバイアス制御の例で、これがベースのリファレンスデザインMAXREFDES39#も提供されている。

PIXI:MAX11300 制御/モニタ応用例(クリックで拡大)

PIXI:MAX11300 パワーアンプバイアス応用例(クリックで拡大)

まとめ

PIXI:MAX11300は、産業用途を意図した高電圧とバイポーラ電圧を扱うことができる、プログラマブルミックスドシグナルI/Oデバイスである。何よりも、産業機器の仕様に対応する類似のICはほとんどないので、このような汎用性と自由度が高く、高性能なプログラマブルデバイスが提供されることは、産業機器設計に大きなメリットとなる。
現状では、MAX11300と通信インタフェースだけが異なるI2C仕様のMAX11301が用意されているが、Maximでは今後PIXIのラインアップを増強していく予定である。汎用性と柔軟性が高まることは、最終的にはTime-to-marketの促進につながるので、産業機器用途でのプログラマブルI/Oの利用価値は高いものと考える。

関連情報

PIXI:MAX11300 製品情報
PIXI:MAX11300 無料サンプル
PIXI:MAX11300 評価キット、技術資料、IBISモデル
PIXI:MAX11300 プログラミング動画
リファレンスデザインMAXREFDES39#

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