Maxim Integratedは、「Himalaya(ヒマラヤ)降圧スイッチングレギュレータ」と呼ぶ、産業機器向け高耐圧同期整流降圧DC/DCコンバータICファミリの拡充を進めている。「Himalaya」という呼称は、60Vを超える高耐圧と、高効率ゆえに発熱が小さく低温であることから、ヒマラヤ山脈をイメージしたという。 |
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このDC/DCコンバータファミリは、1年半ほどで9品種にまで拡充され、最近、出力電流が25mA~300mAの低出力電流バージョン4品種が追加された。 |
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パワートランジスタ内蔵タイプで60Vという高耐圧を実現し、このような低いレベルの出力電流をカバーする同期整流降圧DC/DCコンバータICは、現在の市場においてわずかしか存在しない。ゆえに、そのポジショニングやアプリケーションは興味深く、今回取材を行った。 |
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(取材:高橋 和渡/f プロジェクト・コンサルティング) |
小型化と省電力化に比較的寛容さがあった産業機器でも、これらの条件は必須の要求事項となってきている。産業機器は民生機器と異なり、産業機器特有の厳しい動作環境や、IEC電源関連規格、過電圧カテゴリ、SELV/PELVなどへの準拠、対応といった、多くのクリアしなければならない条件が存在する。その一つとして高電圧を許容するという課題があるが、元来、小型化や省電力化とは相反するものであった。 | |
MaximのHimalaya降圧スイッチングレギュレータは、(1)60Vの高耐圧を備え、(2)同期整流方式を採用することにより高効率を達成し発熱を低減するとともに、(3)外付けのショットキダイオードを不要にし、(4)位相補償回路など他の外付け部品も最小限にし、小型化と省電力化を図るというコンセプトのICで、すでに、2.5AのMAX17503など中電力製品ではこのコンセプトを実証済みである。以下に、Himalaya降圧スイッチングレギュレータのラインアップを示す。 | |
MAX17550/25mA、MAX17551/50mA、MAX17552/100mA、MAX15062/300mAが、最近発売された低出力電流バージョンである。MAX17550、MAX17551、MAX17552の3品種は、基本的に同パッケージのピン互換品で出力電流が違うバージョンとなる。MAX15062は出力電流以外にもパッケージや仕様設定が異なり、MAX17501/500mAやMAX17502/1Aに近い。300mA出力でありながら、ファミリ最小の2×2mm TDFN8パッケージを採用している点は見逃せない。 |
MAX17550 MAX17551 MAX17552 |
MAX15062 | MAX17501 | MAX17502 | MAX17505 | MAX17503 | MAX17504 | |
共通 | 入力電圧範囲:4.5V~60V(MAX17550/1/2は4Vから)、スイッチングトランジスタ内蔵、内部位相補償 効率:90%以上、PFMモード(MAX17502はなし) |
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出力電流 | 25mA 50mA 100mA |
300mA | 500mA | 1A | 1.7A | 2.5A | 3.5A |
SW周波数 | 可変: 100KHz-2.2MHz |
固定: 500KHz |
固定: 300KHz/600KHz |
固定: 300KHz/600KHz |
可変: 200KHz-2.2MHz |
可変: 200KHz-2.2MHz |
可変: 200KHz-2.2MHz |
出力電圧 | 可変: 0.8V-0.9xVIN |
可変: 0.8V-0.9xVIN 3.3V, 5V |
可変: 0.9V-0.9xVIN 3.3V, 5V |
可変: 0.9V-0.9xVIN 3.3V, 5V |
可変: 0.9V-0.9xVIN |
可変: 0.9V-0.9xVIN |
可変: 0.9V-0.9xVIN |
パッケージ | TDFN10: 2mmx3mm uMAX10: 3mmx3mm |
TDFN8: 2mm x 2mm |
TDFN10: 3mm x 2mm |
TDFN10: 3mmx2mm TSSOP14: 5mmx4.4mm |
TQFN20: 4mmx4mm |
TQFN20: 4mmx4mm |
TQFN20: 5mmx5mm |
特 長 | メリット | |
・ショットキダイオード不要 ・内部補償 ・内部ソフトスタート(外部設定可) ・全セラミックコンデンサ使用 ・最大スイッチング周波数:2.2MHz |
>外付け部品が少なくコストを低減 >小型のインダクタと出力コンデンサを使用可 >実装面積を低減 |
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・広い入力電圧範囲:4V〜60V ・可変出力電圧:0.8V~0.9×VIN ・最大負荷電流:25mA/50mA/100mA ・スイッチング周波数範囲:100kHz〜2.2MHz ・外部同期可能 ・PFMまたは強制PWMモードの選択が可能 ・ピン互換 |
>ほぼ同じ設計で異なる負荷電流に対応可能 >1品種で広範に対応できるので発注管理が軽減 >ノイズ対策が柔軟 >サイズと効率のトレードオフが可能 |
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・同期整流による高効率化 ・ピーク効率:90%以上 ・無負荷時消費電流:22μA ・PFM動作では低負荷時でも高効率を維持 ・シャットダウン電流:1.2μA(typ) |
>高効率=低発熱 >低消費電流 >待機時(低負荷)も高効率を維持 |
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・ピーク電流制限 ・出力電圧監視内蔵(RESET) ・EN/UVLO(外部設定可能) ・負荷がバイアスされていても単調に起動 ・熱保護 ・産業用を超える動作温度範囲:-40℃~+125℃ |
>過酷な産業環境で信頼性の高い動作 >保護機能による安全確保 |
「大は小を兼ねる」という言葉があるが、スイッチングレギュレータの場合は「大は小を兼ねない」と考えるべき点がある。もちろん、単に給電するだけであれば大は小を兼ねるのだが、効率や消費電力を考えると損失が多くなってしまう。例えば10kgの荷物を運ぶのに、大型トラックを使うのと軽トラックを使う違いのイメージである。 | |
大きな電力を供給できるスイッチングレギュレータは、スイッチ電流制限が最大出力電流に合わせて設定されており、基本的にはスイッチするごとにその電流を流すことになる。また、スイッチ(MOSFETなど)も相応の電流を扱えるものが使われており、その駆動電力もそれなりに必要となる。つまり、供給電力が大きなスイッチングレギュレータは、どうしても自己消費電力が増えてしまう傾向にある。低負荷時の効率は自己消費が支配的になってくるので、結果として低負荷時の効率は悪くなる。たとえPFM動作にしてもそこには限界がある。 |
MAX17552/100mAの効率曲線(PFMモード) |
MAX17501/500mAの効率曲線(PFMモード) |
このグラフは、100mAのMAX17552と500mAのMAX17501の効率で、どちらもPFM動作で出力は5Vである。負荷電流が100mAの時点ですでに差が表れており、10mAでは、12Vおよび24V入力で10%くらいの差が認められる。さらには1mAという、例としては給電回路が待機状態のようなときには、無視できない効率の差が出てしまう。500mAのMAX17501はこのファミリの一員であり、同じ出力電流の競合品との比較では優れた効率特性をもっているので、この差は適性の違いという見方ができる。 | |
結論としては、最適化が必要な場合は、必要な負荷電流に合わせたスイッチングレギュレータを選ぶことが重要である。主に効率面について述べたが、スイッチ電流が大きくなるとインダクタなど外付け部品もその電流を許容するためにサイズが大きくなり、実装面積に関しても無駄が出てしまうことも考えに入れる必要がある。 |
冒頭で述べたように、パワートランジスタ内蔵タイプで60Vという高耐圧を実現し、このような低いレベルの出力電流をカバーする同期整流降圧DC/DCコンバータICは、現在の市場には少数しかない。それ以前に、先に市場に投入された出力電流が数アンペアの中電力品の近似品も未だ数少ない。 | |
高耐圧電源の一般的な使われ方としては、出力電流1A前後~数Aのものを、産業機器であれば24Vや12Vの電源バスを入力とするI/Oボートなどのローカル主電源が多いと思われるが、24Vのフィールド電源から給電される場合も少なくない。フィールド電源が入力の場合は十分な許容度をもった電源を使いたい。 | |
また、回路規模の小さいボード、昨今の小型化や省力化で必要な電力が小さいI/Oボード、4mA~20mA電流ループ駆動のセンサー用の電源なども増えている。これらの負荷電流は100mA以下の場合も多いと聞く。 |
Maximは、産業機器向けのICラインアップの拡充を行っている。電源関連では、高効率絶縁用、モジュール製品、そして今回の「Himalaya降圧スイッチングレギュレータ」こと、高耐圧同期整流降圧DC/DCコンバータの3カテゴリがすでに展開されている。 高耐圧同期整流降圧DC/DCコンバータでは、スイッチングトランジスタ内蔵型で3.5Aまでの出力電流を可能にしている。加えて今回取り上げた、最低25mAという低出力電流バージョンのラインアップは、まだ他社が追従していない領域である。 |
Maximは、高耐圧同期整流降圧DC/DCコンバータのファミリの拡充を継続し、今回の低出力電流バージョンの25mAから将来的には50Aまでのラインアップを視野に入れているとのことで、Maximの産業機器分野へのアプローチには積極性が伺える。 |