優れたリファレンスデザインを有効利用-最終製品にそのまま展開できるMaximのサブシステムソリューション

Maxim Integratedは、お客様が最終製品にそのまま利用できるレベルのリファレンスデザインの開発に注力していると言う。近年リファレンスデザインという言葉をよく聞くが、設計の参照例であることを除いて、そのレベルや意図はまちまちのようである。
Maximは従来からリファレンスデザインを提供していたが、2012年にリファレンスデザイン専門の部署を立ち上げ、あらためてリファレンスデザインを「最終製品にそのまま利用できるソリューション」と位置づけ、回路図はもちろん、基板レイアウト、ソフトウェア、試験データ、評価ボードなど設計に必要な情報を一つのパッケージとして用意し、評価ボード以外はすべて無償で提供している。
本稿では、リファレンスデザインの意義、そしてリファレンスデザインが設計者にもたらすものについて、実際のリファレンスデザインを例に検証する。
 (取材:高橋 和渡/f プロジェクト・コンサルティング)

リファレンスデザインは、お客様の製品設計を迅速かつ確実にするソリューション

リファレンスデザインとは何か
リファレンスデザインという言葉をよく耳にするようになったのは、FPGAやCPUが高度化し、電源に複雑な制御が必要になり始めた頃からだと記憶している。FPGAの例だと、高精度な低電圧や起動時のシーケンスなど、FPGAの仕様に合う電源でなければFPGAが正しく動作しないため、FPGAメーカーが(もしくは電源ICメーカーが「FPGAメーカー確認済み」として)具体的な電源ICや回路定数、そして基板レイアウト情報などを提供し始めた。つまり、リファレンスデザインと称するものは、その通りに設計すれば確実に動作することが検証された回路のことである。

リファレンスデザインの必要性
近年、ICメーカーはリファレンスデザインを積極的に提供し始めている。これは、市場の大きな変化に対応するための、設計者とICメーカーの関係、つまり要求と役割の変化の現れだと考えられる。

市場は、常に刷新を求めており、特に近年の省電力化と小型化に対する世界的な動向は、設計者にとって大きな課題となっている。さらに新興国市場の急成長により、Time-to-marketの短縮とコスト削減が強く求められている。

現代の設計者は、省電力化、小型化、時間短縮、コスト削減という制約を抱えながら、刷新を実現しなければならない状況にあり、従来からのやり方では対応が厳しいことが明らかである。例えば新規設計において、ICやその他の部品の新しい機能や動向を調査検討し、評価を行い部品選定をするといった、非常に重要な工程にさえも時間を割くことが難しくなってきている。


一方、ICメーカーは、市場や設計者のニーズを調査し、ICの集積化を進め、新しい機能をもったICを開発している。しかしながら、かつてはその集大成であったカスタムICやASICは、開発時間と購入に関連する制約やコストの面で、ICメーカーとお客様の双方においてリスクが高くなっており、検討が難しいアプローチとなっている。特に産業機器のアナログ分野においては、広範な用途と仕様に対応するため、ある程度の周辺機能や部品を取り組んだ汎用型のICを組み合わせて設計を行うほうが、柔軟性が高く有利な面が多いことが認識されている。ただし、設計者は前述した従来型の部品選定の工程を避けては通れない。

つまり、昨今の状況において設計者が必要としているのは、部品情報だけではなく設計課題を解決できるソリューションであり、ICメーカーが必要としているのは、ソリューション提案のための情報収集の機会、つまりお客様との良好な相補関係である。その一つの解がリファレンスデザインであり、すでに設計者にとっては迅速かつ確実な製品設計のための重要なツールになっている。 

Maximのリファレンスデザインは、産業機器の専門知識を持ちICを熟知した専門部署が開発

Maximのリファレンスデザインは、お客様がそのまま最終設計に利用できることを前提としている。ところが、これは並大抵のことではない。これを実現できるのは、システムや機器の専門知識、お客様のニーズ、そしてICの機能と利点を熟知した、非常に経験豊かなエンジニアだけである。Maximは高性能なアナログICをベースに発展してきたメーカーゆえ、「システム設計を知っているエンジニア」が揃っているので、リファレンスデザインの専門部署を用意できるのである。
この専門部署によるリファレンスデザインは、過去からのものを除きすでに15種ほどが提供されている。主に産業機器用のサブシステムデザインで、基本的にその回路図、部品表、基板レイアウト、Gerberファイル、CADデータ、フォームウェア、試験データが無償提供されており、評価ボードは販売されている。また、デザインの呼称には、Maxim本社が米国カリフォルニア州サンノゼにあることからか、米国西海岸の地名が主に使われている。以下に、専門部署が開発したファレンスデザインを表にまとめた。

パワー プログラマブルロジックコントローラ
プログラマブルオートメーションコントローラ
センサー
AC測定 アナログ入力 アナログ出力 デジタル入力 電源 4-20mA アナログ
Sonoma
・高精度、絶縁
Fresno
・0~10V
Campbell
・4-20mA
Santa Fe
・マルチ入力
Fremont
・0~100mV
Carmel
・高精度1ch
Corona
・8ch
Lakewood
・3.3V~±12V
Oceanside
・3.3V~±15V
Riverside
・3.3V~+12V
Monterey
・PT1000, 4-20mA
Santa Cruz
・IO-Link ALS
Novato
・4-20mA, HART対応
 
セキュリティ
Alcatraz
・1-Wire認証

Corona(MAXREFDES12#) 絶縁型産業用デジタル8入力、レベル変換器/シリアライザ
一例として、Coronaと命名された絶縁型デジタル8入力のレベル変換およびシリアライズ機能のサブシステムデザインの内容を示す。

Coronaは、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)のデジタル入力モジュールのフロントエンドインタフェース回路である。プロセスコントロールや自動化アプリケーションで使用されるセンサーやスイッチの24Vのデジタル出力をシリアル変換し、その信号を絶縁してSPIでFPGA開発ボードやMCUと通信を行う。また、絶縁電源も備えており、Pmodにも対応する。Coronaの回路は3種類のICで構成され、各ICが担う機能は以下の通り。

MAX31911:8chデジタル入力、レベル変換器/シリアライザは、36Vの入力を備え、24V系デジタル出力を8:1にシリアル化し、さらに送信先のロジックレベルに変換を行う。

MAX13256:Hブリッジトランスドライバは、トランスと整流器を利用して7~36Vの絶縁出力電源を構築する。

MAX14850:6chデジタルアイソレータは、MAX31911のシリアルデータラインに600VRMSの絶縁を与える。

このリファレンスデザインに対して、ウェブサイトで回路図、部品表、基板レイアウトなどの情報ファイル一式がダウンロード可能で、評価ボードはMAXREFDES12#という型番で販売されている。紙面の都合ですべては説明できないので、リンクを利用して実物を確認いただきたい。

ここで確認しておきたいのは、絶縁電源を備えたPLCのデジタル入力モジュールのフロントエンドインタフェース回路が、わずか3個のICで成立している点である。さらに回路図を見てもらうとわかるのだが、各ICが必要とする外付け部品は、数個のコンデンサ、抵抗、ダイオードだけで、絶縁電源にはトランスと整流器が必要だが、それでも非常に部品点数が少ない。

これは、ICのラインアップと機能を熟知しているICメーカーのエンジニアが、必要な回路機能を実現するために、最も適したICを選択し、最も部品数が少なくなるように構成した結果である。例えば、シリアル変換されたデータの絶縁方法だが、もしこのデジタルアイソレータICを知らなければ、一般的にはフォトカプラを使うだろう。しかし、フォトカプラには消費電力やエージングによる劣化といった課題があり、このデジタルアイソレータICの選択は、部品点数が少なくなるだけではなく、このような潜在的な問題も解決している。
 
Corona リファレンスデザイン (クリックで拡大)




評価用ボードMAXREFDES12#
(クリックで拡大)



Corona リファレンスデザイン回路図
部品点数が少なく洗練された回路であることがわかる。
(クリックで拡大)

まとめ

Maximは、「Maximのリファレンスデザインは最終製品にそのまま利用できるもの」と明確に定義している点に着目したい。様々なリファレンスデザインがあるなか、その質は非常に重要である。つまり、設計者の課題を解決しニーズに応えてくれるのは、参考程度のリファレンスデザインではなく、本当に使えるリファレンスデザインである。そういう意味では、リファレンスデザインと言えども、十分に吟味してから利用する、つまり優れたリファレンスデザインを利用することが重要である。

Maximは、専門部署によりリファレンスデザインの開発を促進しており、その原動力の一つはお客様からのインプットだと言う。設計者においては、リファレンスデザインを利用しつつ、ICメーカーとコミュニケーションをもち深い相補関係を築くことは、これからの市場要求に対応するために有用なアプローチと言える。

関連資料

以下のリンクは、本文および表にあるリンク先とは別の詳細情報になります。
Sonoma (MAXREFDES14#):絶縁型エネルギー測定サブシステム
Alcatraz (MAXREFDES34#):SHA-256セキュア認証設計
Fresno (MAXREFDES11#):16ビット高精度0~10V入力絶縁型アナログフロントエンド(AFE)
Campbell (MAXREFDES4#):16ビット高精度4~20mA入力絶縁型アナログフロントエンド(AFE)
Santa Fe (MAXREFDES5#):16ビット高精度マルチ入力絶縁型アナログフロントエンド(AFE)
Fremont (MAXREFDES6#):16ビット、高精度、0~100mV入力、絶縁型アナログフロントエンド(AFE)
Carmel (MAXREFDES18#):高精度アナログ電流/電圧出力
Corona (MAXREFDES12#):絶縁型産業用、オクタル(8回路)、デジタル入力トランスレータ/シリアライザ
Lakewood (MAXREFDES7#):3.3V入力、±12V (±15V)出力絶縁型電源
Oceanside (MAXREFDES9#):3.3V~15V入力、±15V (±12V)出力、絶縁型電源
Riverside (MAXREFDES8#):3.3V入力、12V (15V)出力絶縁型電源
Monterey MAXREFDES15#:超低電力、高精度4~20mA 2線式電流ループセンサー
Santa Cruz (MAXREFDES23#):IO-Link光センサー
Novato (MAXREFDES16#):4~20mAループ駆動温度センサー、HART内蔵

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