産業システムの安全性を高める「過電流過電圧プロテクター」

Maxim Integratedは、PLC(Programable Logic Controller)やセンサーシステムなどの産業機器を電源障害から保護する「過電流過電圧プロテクタ」と呼ぶICを、産業界向けの新ソリューションとして展開している。   MAX14588の評価ボード
実際の動作に必要なのは橙色の線で囲んだ部品だけで、抵抗やコンデンサが8個程度。ほぼ中央に実装されているICが 3×3 mmのMAX14588。評価のためのジャンパーを省くと、非常にコンパクトなことがうかがえる。
(クリックで拡大)
産業機器は一般に、厳しい環境で使用され、予期せぬ高電圧や障害の発生に対して、信頼性と安全性確保のための耐性が要求される。特にシステムバス経由で多数のモジュールやユニットの給電が行われる場合は、1つのモジュールの障害がシステム全体の障害につながる可能性があり、これを回避するために様々な保護が必要となる。
モジュールなどのローカル機器はいまだ、質素な機能でありながら多数の部品とそれに伴うスペースを必要とする、従来からのディスクリート構成の保護回路が搭載されている場合が多い。しかしながら、近年は、より高度な保護と同時に省電力と省スペースが求められるので、設計者の課題は大きい。
Maximは、こういった設計者の課題を解決するために過電流過電圧プロテクタMAX14588というICソリューションを用意している。本稿ではその詳細を確認する。
 (取材:高橋 和渡/f プロジェクト・コンサルティング)

コンパクトな3×3mmのパッケージに必要な保護機能を集積し外付け部品もわずか

早速ではあるが、過電流過電圧プロテクタMAX14588の特徴と機能を確認して行く。

最初に右のアプリケーション例を見ていただくと、MAX14588がどのように使われるかがすぐ理解できる(クリックで拡大してみていただきたい)。これはPLCの一例で、各モジュールの電源はシステムバスの12Vや24Vから供給され、モジュール内の絶縁電源が内部回路に必要な5Vなどの電圧に変換している。過電流過電圧プロテクタMAX14588は、システムバスと内部絶縁電源の間に入り、モジュール内の電源障害、およびシステムバス電源障害や過渡に対して双方を保護する。

提供される保護は以下の5つで、必要となる保護機能がほぼ揃っている。

過電圧保護:±40V(最大定格)
過電流保護:0.15A~1A
過電圧ロックアウト(OVLO):プリセット33V、可変6V~36V
低電圧ロックアウト(UVLO):プリセット18.5V、可変4.5V~24V
逆電流保護

また、仕様の概要と特徴は以下の通りである。
広い入力電源範囲:+4.5V~+36V(-36Vを許容)
低消費電流:800μA(max)
低RonのBack-to-Back FET(Pch+Nch)内蔵:IN-OUT間で190mΩと低損失
電流検出抵抗内蔵
外付け部品が少ない
サーマルシャットダウン:チップ温度+150℃で起動
産業標準より拡張された動作温度範囲:-40℃~+125℃
3種類のロックアウトモード:条件に合わせて自動再試行、ラッチオフ、継続的電流制限を選択
入力デバウンス機能による誤動作防止
障害発生を知らせるフラグ出力
36Vまでの高電圧入力が可能なイネーブルピン(HVEN)
小型16ピンTQFNパッケージ(3mm×3mm)

MAX14588の内部ブロック図をみると、その集積度の高さがわかる。他の類似品の多くは、FETや検出抵抗は外付けである。また、OVLOとUVLOのしきい値はプリセットされているので、プリセット電圧でよければ、外付け設定抵抗4本は不要になる。さらには、これだけの保護機能をディスクリートで実現するとすれば、多くの部品と複雑な回路が必要なのはもちろん、動作保証の検証などその労力は計り知れない。

アプリケーション回路がシンプルでコンパクトなのは上記の評価ボードの写真で示したが、あらためて回路図でも確認いただきたい。
PLCにおけるアプリケーション例
1A対応のMAX14588の他、4.2A対応のMAX14571/2/3を含んだ例。 (クリックで拡大)




MAX14588の内部ブロック図
提供する保護機能のための回路がすべて集積されている。必要な外付け部品は、評価ボード写真、アプリケーション回路例が示すように非常に少ない。 (クリックで拡大)





MAX14588の応用回路例
部品点数が少なく、シンプルでコンパクト (クリックで拡大)


保護機能は柔軟性が高くユーザーフレンドリ

ここで、過電流保護機能についてもう少し詳細を述べる。

最大1Aの電流を制限可能で、電流精度は0.15A~0.3Aまでが±20%、0.3A~1Aまでが±10%と高精度である。OUTピンから給電される内部絶縁電源に障害が発生した場合に、過度の発熱や果ては焼損などを防ぐために重要な機能である。電流の制限値はSETIピンとGND間に接続する抵抗値で簡単に決定することができる。

設定した電流制限に至るような障害が発生した際の応答としては、(1)自動再試行、(2)ラッチオフ、(3)継続的電流制限の3つのモードをCLTS1とCLTS2という2本のピンで選択でき、システムの要件にあわせた障害時の状態や動作を選べる。

自動再試行モードは、電流が制限値に達し21msのブランキング時間を超えて継続すると、IN-OUT間のFETがオフして出力供給が停止する。その後620msで再試行が自動的に行われFETがオンし、電流がブランキング時間を超えて制限値に至らなければ正常と見なし復帰、制限値に至ればまたオフ状態になる。(タイミングチャート参照)

ラッチオフモードは、自動再試行モードの自動再試行を行わないモードで、オフになるとオフに固定する。イネーブルピン(EN/HVEN)をトグルするか、入力を再投入することによってリセットする。

継続的電流制限モードは、電流が制限値に達するとそのままの状態を維持し電流を流し続けるモード。ブランキング時間を超えて制限が継続すれば、フラグが出力され制限値を下回るとフラグが戻る。

これらのシャットダウン動作と並行して自身を過熱から守るためのサーマルシャットダウン機能が、ブランキング時間とは関係なしにチップの温度が150℃を超えるとシャットダウンを実行する。30℃下がるとシャットダウンを解除するが、復帰は各モードの復帰条件にのっとる。
  自動再試行モード(クリックで拡大)




ラッチオフモード(クリックで拡大)



継続的電流制限モード(クリックで拡大)
OVLOとUVLOも簡単かつ柔軟に設定できる。内部でしきい値がプリセットされているのでそのまま使うことができるが、2本の外付け抵抗でしきい値を設定することも可能だ。
逆電流保護機能は、RIENピンによってディセーブルすることができ、OUTからINへの逆電流を流すこともできる。
このように、各保護機能は使用条件に合わせて調整できるようになっており、設計者にはフレンドリな仕様といえる。

まとめ

MAX14588は、PLCやセンサーシステムの信頼性と安全性を高めるために不可欠な保護機能を提供している。必要とされる保護機能をほぼ搭載し、高度な集積化により外付け部品が少なく、シンプルで非常にコンパクトなソリューションである。

類似のICでは、FETや検出抵抗など外付け部品に頼るところが大きく、ディスクリート設計では同等の機能を実現するのは至難の業である。こういった状況に、機能面だけではなく、近年の必須の要求事項である省電力と省スペースに対する回答も備えたICであることが確認できたと思う。

Maximでは、今回取り上げた1AのMAX14588の他に、4.2Aバージョンなど産業機器やシステム向けに保護機能を提供するICを用意しており、今後も開発を進めるという。産業機器の設計において、新しい部品やソリューションを取り入れることに消極的な傾向は無きにしも非ずだが、すでに時代は産業機器にも多くの刷新を求めているのも事実である。Maximは産業機器向けに、堅牢でありながら新しい時代の要求に応える製品を積極的に展開しているので、検討対象としての価値は高いと考える。

関連資料

MAX14588 1A/40V 過電流過電圧プロテクタ : データシートおよび情報インデックス
MAX14588 1A/40V 過電流過電圧プロテクタ : 無償サンプル
MAX14588 1A/40V 過電流過電圧プロテクタ : 評価キット
MAX14571, MAX14572, MAX14573 4.2A/40V 過電流過電圧プロテクタ : データシートおよび情報インデックス
MAX14571, MAX14572, MAX14573 4.2A/40V 過電流過電圧プロテクタ : 無償サンプル
MAX14571, MAX14572, MAX14573 4.2A/40V 過電流過電圧プロテクタ : 評価キット
MAX14626 4-20mA 電流ループプロテクタ : データシートおよび情報インデックス
MAX14626 4-20mA 電流ループプロテクタ : 評価キット


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