オペアンプ、冷接点補償、ADコンバータなど必要な機能をすべて搭載「熱電対-デジタル コンバータ」

Maxim Integratedは、産業計測、プロセス制御、医療など、様々な分野で広く使われている熱電対を使った温度測定のために、設計が簡単で容易に高精度を得ることができるICソリューションの展開を進めている。   熱電対のアナログ信号処理からデジタイズまでに
必要な機能をすべて搭載した「熱電対-デジタル
コンバータ」 MAX31855
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この背景には、地球規模での環境およびエネルギー問題への取り組みとして、より精度が高く、多点測定も含めた細やかな温度管理が求められていることを始め、新興国需要に対する低コストで生産効率の高い製品開発の要求などがある。また、医療分野では高精度温度制御が、新しい治療法の開発にも寄与しているという。
一方、熱電対による温度計測手法は不変であり、設計者は数十年も変わらないディスクリートベースでの設計を強いられている。これに対しMaximの「熱電対-デジタルコンバータ」は、設計者の負担を大幅に軽減し、time-to-marketの短縮にも貢献する高度に集積化がなされたICであるという。
 (取材:高橋 和渡/f プロジェクト・コンサルティング)

熱電対はシンプルで広範な温度を測定できるが、信号処理回路が厄介

「熱電対-デジタルコンバータ」 MAX31855の検証に入る前に、温度測定の方法と熱電対について簡単におさらいをしたい。

温度測定方法は接触式と非接触式に分けられる。接触式には水銀やバイメタルなどを利用する膨張式、水晶、サーモペイントなどを使う計数式、そして熱電対、白金抵抗温度計(RTD)、サーミスタ、ダイオード、ICセンサーを使う電気式がある。非接触式としては、放射温度計がある。

参考までに熱電対と他の電気式温度センサーの特徴と、熱電対のタイプ別特性を示す。

熱電対は、電源が不要でシンプル、金属ワイヤそのままなので振動や衝撃に強く、ガス雰囲気中など厳しい条件下でも使え、安価でもある。そして、非常に広い範囲の温度測定が可能なので、様々な場所、用途に使える非常に汎用性の高い温度センサーの一つである。

こういった長所を持つ熱電対だが、短所がないわけではない。1℃あたりの電圧変化(ゼーベック係数/感度)が数十マイクロボルトと低く、絶対的な温度を示すわけではないので、実際の温度を知るためには冷接点補償が必要となり、全体の回路としては複雑なものになる。

下記の回路は、熱電対を使った温度測定回路の一例だが、これを例に動作と検討事項を説明する。また、右の<熱電対と冷接点補償>も合わせて参照いただきたい。
電気式温度センサーの特徴 (クリックで拡大)

JIS熱電対のタイプと特性
タイプ 温度範囲(℃) 感度(µV/℃)
K −200 ~ +1200 41
J −40~+750 55
N −200 ~+1250 39
R 0 ~+1600 10
S 0 ~+1600 10
B 600 ~+1700 10
T −200 ~+350 43
E −200 ~+800 68

 <熱電対と冷接点補償>
熱電対は2本の異種金属線を接合し、発生する熱起電力(電位差)を利用して、温度を測定するセンサーである。
その接合部を測温接点と言い、接合されていないもう一方の端を基準接点と呼ぶ。
熱起電力はあくまで差動電圧で、絶対温度を直接的に示すものではないので、基準接点の温度を別途測定し、差分の電圧から測温接点の温度を求める。
基準接点は氷水を使うことで0℃にする方法が用いられるので、基準接点を冷接点と呼ぶことから、この温度補償を冷接点補償という。















熱電対の基準接点は冷接点補償器に接続され、基準接点の温度はIC温度センサーやRTDにより測定される。
基準接点の絶対的な温度(電圧)は、基準温度としてADコンバータに取り込まれる。
熱電対に発生する差動電圧は、オペアンプによって扱いやすいレベルに増幅され、ADCに取り込まれる。
基準接点と測温接点のデータは、マイクロコントローラ等により処理され、測温接点の絶対温度として表される。
ADCは必要な分解能に基づきビット数を選択する。また、高精度高安定な基準電圧源を必要とする。
オペアンプは、オフセット電圧等のDC誤差が小さく、高い温度安定性が求められる。
オペアンプに正確なゲインを設定するために高精度抵抗も必要。
熱電対からの電圧が微小ゆえ、ノイズの影響を受けやすいので、ノイズ対策が重要。
このように熱電対による温度測定には、ADCによるデジタイズ前に高度なアナログ信号処理技術と、複数の高精度デバイスが必要になることがおわかりいただけるだろう。

「熱電対-デジタルコンバータ」 MAX31855が熱電対温度測定を劇的に簡単にする

MaximのMAX31855は、前項の検討事項に戸惑うことなく、熱電対による温度測定回路を簡単に構成でき、高精度な温度測定を可能にする。ブロック図を見ていただければわかると思うが、前項の回路例に示されている機能がすべて搭載されている。加えて、フォールト検出回路、MCUとの通信のためのSPIインタフェースを備えている。

特 長
・熱電対温度測定に必要なすべての機能をワンチップに集積
・自動冷接点補償、較正不要
・J、K、N、S、T、R、Eタイプの熱電対をサポート
・-270℃から+1800℃の測定が可能
・高性能14ビットADCにより、±2%精度、分解能0.25℃を達成
・3線SPIインタフェース
・熱電対の開放、短絡(GNDまたはVcc)を検出
・小型8ピンSOパッケージで、外付け部品は電源バイパスコンデンサのみ
・3.3V電源、動作温度範囲:-40℃~125℃
 
MAX31855のブロック図
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MAX31855を使ったMaximのペリフェラルモジュール:
MAX31855PMB1 
ワンチップ熱電対-デジタルコンバータ


熱電対のサポートについては、各タイプごとに専用バージョンが用意されている。右上の写真は、MAX31855を使ったMaximのペリフェラルモジュールMAX31855PMB1だ。U1が8ピンSOパッケージのMAX31855で、あとはフィルタと保護回路を介して熱電対につながっているだけである。文字通り「熱電対」から「デジタル」への変換を直接的に行う。

もし、MAX31855を使わずに前項の回路をディスクリートで構成すると、冷接点補償用IC、高精度オペアンプ、温度センサーIC、ADC、基準電圧源、高精度抵抗など、すでに5個以上のICと抵抗、コンデンサが複数必要で、如何にMAX31855のソリューションが簡単かつコンパクトであるかがわかる。さらにフォールト検出回路を追加するとなると...もう説明は不要であろう。

現状としては、冷接点補償用のICを用意しているメーカは数えるほどで、ラインアップも少ない。筆者が知る限りでは、アナログ信号調整回路までの集積がせいぜいで、ADCを備え「熱電対-デジタルコンバータ」としてのワンチップ化はMaximがリードしているものと思われる。

まとめ

Maximは産業機器向けのICラインアップを強化し、産業界に積極的なアプローチを続けている。今回取り上げたMAX31855は、熱電対温度測定用のICで、そのマーケットは非常に広範である。しかしながら、熱電対アプリケーション用のICは少なく、設計者は昔ながらのディスクリート構成を強いられているだけではなく、低コスト化や部品点数削減による生産性の向上など、多くの課題を抱えている。この状況においてMAX31855は、非常に貢献度が高いデバイスだと考える。

Maximでは、サンプル供給はもちろん、USB接続で簡単に動作確認ができるMAX31855の評価ボードも用意している。また、同じコンセプトの派生品で、1線インタフェースで電源が不要な多点計測が可能なMAX31850/MAX31851、白金抵抗温度計(RTD)用のMAX31865といった温度計測向けのソリューションが用意されており、温度計測マーケットに対して積極的な展開をしている。


関連資料

MAX31855 熱電対-デジタルコンバータ: データシートおよび情報インデックス
MAX31855 熱電対-デジタルコンバータ: 無償サンプル
MAX31855 熱電対-デジタルコンバータ: 評価キット
MAX31855PMB1 熱電対-デジタルコンバータ ペリフェラルモジュール(掲載写真参照)
MAX31850/MAX31851 1-Wire 熱電対-デジタルコンバータ: データシートおよび情報インデックス
MAX31850/MAX31851 1-Wire 熱電対-デジタルコンバータ: 無償サンプル
MAX31850/MAX31851 1-Wire 熱電対-デジタルコンバータ: 評価キット
MAX31865 RTD-デジタルコンバータ: データシートおよび情報インデックス
MAX31865 RTD-デジタルコンバータ: 無償サンプル
MAX31865 RTD-デジタルコンバータ: 評価キット

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